慟哭ノプラチナ
     色々なときめきに右往左往する毎日を、つらつらと書きます。 テンションは日によって変わる感じ。眠りについたあとは、夢でお逢いしましょう。
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柚木×月森・2
tactics

「月森君、こんなところで何をしているの?」
「…柚木、先輩」
突然声を掛けられて、俺ははっと顔を上げた。気付かぬうちに彼は一つ前の席に腰を落として、こちらを見据え緩やかに笑っている。
それは何か云いたげな表情にも見えた。けれど尋ねることはしなかった。俺の本意ではないのだ。
「それはこちらの台詞ですよ、先輩」
「どうして?」
「どうしてって…。二年の教室じゃないですか、ここは」
俺の言葉のすぐ後で、目の前の男はにっこりと笑った。しなやかに長い髪を指の先に絡めて、弄ぶようにして。
「僕が君に逢いにきた、とは思わないのかな?」
「えっ?」
「…冗談だよ」
小さく背ける視線の先を、無意識に追いかける。
「少し時間ができたから、寄ってみただけだよ」
零れた髪を耳に掛ける、慣れた手の流れる先。捕らわれたまま、それでも逸らすことのできない俺に、彼は気が付いているのだろうか。言葉にも、その仕草にさえ瞳を奪われ翻弄される。そんなこと、俺の本意ではないというのに。
「…」
少しの間、辺りを覆い尽くすように沈黙の霧が張る。我慢できずにそれを掻き消したのはやはり俺の方だ。
「何?」
「何って…」
口の端で小さく笑って、彼は涼しげに目配せをする。
「俺に何か用ですか?」
素っ気なくそう告げても、胸の中の苛立ちは否めなかった。
当然のことだろう。それが彼の常であるのだと分かってはいるが、しかしそのまま受け入れられるほど俺は単純ではない。眉を寄せたままで、じっと見つめた。
「どうしてそんなに恐い顔をするんだい?」
「だから俺に…」
「もっと笑ってくれたらいいのに…」
「なっ…」
長い髪を弄ぶのに飽きたそれをすっと伸ばして、彼はそのまま俺の視界を塞いだ。
「しっ、黙って。云うことを聞かないと…意地悪するよ?」
「先輩…!」
「あれ?僕はちゃんと忠告したのにね」
そのすぐ後。返す言葉を紡ごうとする俺の声は、遮られた。
彼の指先は酷く冷たいというのに、口唇に触れるそれはとても熱くて戸惑いすら覚える。けれど、嫌いではない。
「どうして拒まないの?月森君」
嫌ではないから…と、一度云いかけて止めた。彼は不思議そうに覗き込むが、俺は何も云わなかった。そんなことを云えるはずがない。このやっかいな感情を、彼に気付かれたら面倒だ。
「ねぇ月森君、どうして?」
「…」
「月森君?」
言葉を続ける彼の表情は酷く穏やかで、飲み込んだはずの俺の言葉など容易く見透かされているのだと、すぐに理解できる。それでも負けを認めることは、悔しかったのだ。
「まったく…」
暫く視線を送った後で、彼は一つ息を吐き困ったように笑う。
「一体どうしたら、君の心を知ることができるのかな?」
「それは…こっちの台詞だ」
「どうして?僕はこんなにも君を…」
遠くに響き始めた耳に慣れた音色が、彼の意識を散らした。つられるようにして俺も、音の方へと振り返る。
「月森君」
名前を呼ばれてすぐに視線を戻すと、彼の表情はもういつものそれで、俺は小さく眉を寄せた。
「月森君、君の演奏を聴かせてほしいな」
「先輩…」
音は心を映すという。逃げ場をなくした俺は、彼の言葉にきつく口唇を噛み締めた。



「tactics」 柚木×月森
二つの音色が重なり合う。かけひき。
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