慟哭ノプラチナ
     色々なときめきに右往左往する毎日を、つらつらと書きます。 テンションは日によって変わる感じ。眠りについたあとは、夢でお逢いしましょう。
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3B

[PRECIOUS]



「…原、火原ってば」
「柚木…」
「一体どうしたんだい?」
「えっ?」
慌てて視線を向ける火原の隣に、柚木はそっと並んだ。
「一日中、心ここにあらず、って感じだったけど」
「そ、そんなことないって!いつものおれだよ」
「だったらいいけど」
「うん」
そう笑顔で答えながら、ざわつく胸にはそっと触れてみる。
「火原、今日…」
「なに?」
柚木の言葉を遮るように先を促すが、火原はすぐに俯いた。
「いや、今日はオケ部には行かないのかと思って」
「うん…。今日は…いいんだ」

下校時刻ともなると正門前は酷く騒がしく、常より弱い火原の声音を掻き消すには十分だ。それでも柚木は優しく笑って、続けた。
「それなら一緒に帰ろうか?今日は歩いて帰りたい気分だから」
「えっ?うん!」
肌を刺す寒気とは不似合いなほど、火原は嬉しそうに笑う。それはまるで、この場所にだけ新たな季節が訪れたようだ。柚木は少しだけ眉を寄せた。
「じゃあ帰ろうよ、柚木」
「そうだね」
「あーっ!」
突然の声に驚く肩に、火原は早口で告げる。がさがさと、慌ただしくポケットを探ったあとで。
「おれ、忘れ物した!ごめん柚木、ちょっとここで待ってて」
そう云って一人、校舎へと戻っていった。

「まったく…。どこが『いつものおれ』なんだか。授業中だって、分かりやすいくらい集中力が散漫していたくせに」
彼の背中を目で追いながら、柚木はそっと呟く。見えなくなるのを確かめてから、静かに傍へと掛けた。
「まあそれが、火原らしいところなんだけど」
そう云って一つ息を吐く。肌寒い。風をさえぎるように立つ木に、柚木はゆっくりと背を預けた。風が、彼を避けるようにして流れていった。


柚木が何気なく視線を送ると、こちらへ駆けてくる火原の姿が映る。そのすぐあとに、彼に重なる影。あたたかさすら見える二つの影を、柚木はじっと見ていた。


「ゆの…」
「火原先輩!」
「え?」
自らの声を掻き消され、火原は慌てて主の方を見やる。どうやら普通科の生徒のようだ。小さな包みを抱えた少女は少し俯いて、けれどしっかりと火原の前に立っていた。
「火原先輩…これ、受け取ってください。お誕生日おめでとうございます」
真っすぐな思いを混ぜて、そう云った。



「柚木、待たせてごめん」
「…用事はすんだのかい?」
「見てた…よね?」
火原はばつの悪そうな顔をしていた。自分もたいがい人が悪い、と、柚木は自嘲する。
「そういう君に、彼女は惹かれたんじゃないかな」
そして小さく告げた。
「ごめん、柚木。ちょっと付き合って!」
柚木の答えなど待たず、その腕をぐっと掴む。火原はそのまま校門の先へと足を進めた。


暫くは、沈黙が響いた。その慣れない居心地の悪さから、先に逃げ出したのは柚木だった。
「…見てたよ、火原。何か受け取っていたね。あれは誕生日のプレゼント?」
「う、うん…」
柚木が指先で促す。二人はゆっくりと傍らのベンチに腰を降ろした。

「ところで火原。わざわざ僕をこんなところまで連れてきたのは、一体何のためかな?」
「…うん。柚木に聞いてほしいことがあるんだ」
「どうぞ」
常と変わらぬ口振りでもって、柚木は伝える。けれど鼓動は少しだけ強く音を立てた。柚木自身、それに気付いていないかもしれなかったが。
「さっきの女の子、おれが学内コンクールで演奏してるところを見てくれたんだって」
「へぇ」
「なんかうれしいよね。おれの演奏で、だれかが元気になってくれたりとか」
「だったらこんなところにいないで、早く彼女を追いかけに…」
「ううん、ちゃんと伝えたよ。気持ちはすごく嬉しいけど、おれは応えられないって」
「火原…」
視線を送った先の凛とした横顔が、まるで別人のようだった。柚木は思わず息を飲み込む。
「でもおれ、気持ちがよくわかるんだ。…だれかを好きだなって思う気持ち」
火原は照れくさそうに笑うと、ぐっと背伸びをした。大きく一つ息を吐いて、続ける。
「人を好きになるのって、思うよりずっと切ない。切なくて、ちょっとだけ胸が痛くなって…。…だけど、顔をあげたらそこに柚木が居た。そしたらなんか、心があったかくなった」
にっこりと笑って、火原は柚木を覗き込んでみせる。
「待っててくれてありがとう、柚木。…嬉しかった」
「いや…僕は…」
戸惑いを隠せずに、柚木は思わず顔を逸らした。けれど火原はそれを認めない。ぐっと身を乗り出して、柚木の目の先を手に入れる。
「ねえ、柚木。これ受け取ってくれる?」
その言葉につられるように、柚木は手のひらを差し出した。火原はポケットから取り出したそれを、その手のひらに乗せる。
「今日はおれの誕生日だから」
「知ってるけど…」
「だから、プレゼント」
おそらく火原はそれを握り締めていたのだろう。手の中の小さな包みは、くしゃくしゃだった。
「朝からずっとどきどきが止まらなかった。柚木は受け取ってくれるかなって。どうしてかな?今までこんな風に感じたことなんてなかったのに」
少しだけ声を弾ませて、火原は笑う。
「お礼なんだ。今までありがとう、今日からまたよろしくねって…」
柚木は暫く、何も云えなかった。気付かれないように胸を押さえてから、ようやく言葉を紡ぐ。
「…ありがとう。火原、誕生日おめでとう…」
「ありがとう、柚木。これからも、ずっと一緒にいような!」

少しだけ音を立てて、強い風が彼らを包んだ。
「心って…難しいね」
風の奏でる音色の中で、そう聞こえた気がした。








Happy Birthday!火原

お誕生日おめでとう!ということで、超久し振りの文章投下。

ちょっとしたエピソード的な。実はこの話、1年越しです…。去年の今日を目標に書いてたんだけど、間に合わないまま時は流れ…あはは。
コルダ2のだいすきなイベントをもとにした、はず。後半を一気に書き足したので、色々ぶれているけど…あまり気にしないで頂けると助かります。
火原は本気でかっこいいと思うんだ。
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